SGLT2阻害剤とは?


SGLT2阻害剤(Sodium-Glucose Co-transporter 2 inhibitor)は、2型糖尿病の治療薬として近年注目されている経口血糖降下薬です。この薬剤は、腎臓での糖の再吸収を阻害することで、尿中に糖を排泄し、血糖値を下げるユニークな作用機序を持っています。従来の治療薬とは異なり、インスリン分泌に依存しないため、新しいアプローチとして糖尿病治療に革命をもたらしました。

SGLT2阻害剤の作用機序

  • 腎臓の糖再吸収とSGLT2の役割
    腎臓では、1日におよそ180gの糖が糸球体で濾過されますが、健康な状態ではそのほとんどが尿細管で再吸収され、尿に糖が含まれることはほとんどありません。この糖の再吸収を担う主な輸送体がSGLT2(ナトリウム-グルコース共輸送体2)です。
  • SGLT2阻害剤の作用
    SGLT2阻害剤は、SGLT2の働きを抑えることで、腎臓での糖の再吸収を減少させ、余分な糖を尿中に排出します。その結果、血糖値が低下します。この作用は、インスリンの分泌や感受性に依存しないため、幅広い患者に適用可能です。

SGLT2阻害剤の効果と特徴

  1. 血糖降下作用
    尿中に糖を排泄することで、持続的に血糖値を低下させます。空腹時血糖値や食後血糖値の両方に効果があり、安定した血糖コントロールが可能です。
  2. 体重減少効果
    1日あたり200~300キロカロリーに相当する糖を尿中に排泄するため、体重減少効果が期待されます。これは肥満を伴う2型糖尿病患者にとって大きなメリットです。
  3. 血圧降下作用
    SGLT2阻害剤には利尿作用があるため、血圧を低下させる効果があります。このため、心血管疾患のリスクが高い患者にとっても有用とされています。
  4. 心血管保護効果
    大規模臨床試験により、SGLT2阻害剤が心血管イベント(心不全による入院や心血管死など)のリスクを低下させることが示されています。この結果、糖尿病治療における心血管リスク管理にも寄与する薬剤として評価されています。
  5. 腎保護効果
    糖尿病性腎症などの腎機能低下を伴う患者において、腎機能の維持・進行抑制効果が報告されています。これは、糸球体過剰濾過の抑制や腎臓への負担軽減によるものと考えられています。

主なSGLT2阻害剤の種類

日本で承認されている主なSGLT2阻害剤には以下のものがあります

  • ダパグリフロジン(フォシーガ)
  • エンパグリフロジン(ジャディアンス)
  • カナグリフロジン(カナグル)
  • イプラグリフロジン(スーグラ)
  • ルセオグリフロジン(ルセフィ)
  • トホグリフロジン(アプルウェイ/デベルザ)
  • エルトグリフロジン(シュガーノン)

これらの薬剤は、それぞれ特徴があり、患者の状態に応じて選択されます。

注意点と副作用


SGLT2阻害剤は多くの利点を持つ一方で、副作用や注意点も存在します。

  1. 尿路感染症・性器感染症
    糖が尿中に排泄されることで、尿路や性器の感染症リスクが高まる可能性があります。適切な衛生管理や早期の治療が重要です。
  2. 脱水や低血圧
    利尿作用によって体内の水分量が減少し、脱水や低血圧を引き起こすことがあります。特に高齢者や利尿薬を併用している患者では注意が必要です。
  3. 糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)
    稀に糖尿病性ケトアシドーシスが発生することがあります。この症状は血糖値がそれほど高くなくても起こる可能性があり、吐き気や息切れなどが現れた場合は速やかに医療機関を受診する必要があります。
  4. 腎機能低下患者での使用制限
    腎機能が著しく低下している患者では、SGLT2阻害剤の効果が減少し、副作用リスクが増加するため、使用が制限されることがあります。

SGLT2阻害剤が適する患者

SGLT2阻害剤は、以下のような患者に特に適していると考えられます。

  • 肥満を伴う2型糖尿病患者
  • 心血管疾患や心不全の既往歴がある患者
  • 腎機能低下のリスクがある患者
  • インスリン注射に頼らず治療を進めたい患者

ただし、すべての患者に適しているわけではなく、腎機能や感染症リスクなどを考慮したうえで医師と相談しながら使用することが重要です。

SGLT2阻害剤の未来


SGLT2阻害剤は、単に血糖値を下げるだけでなく、心血管や腎臓を守る多面的な効果を持つ薬剤として、糖尿病治療の新たなスタンダードになりつつあります。また、心不全や慢性腎臓病(CKD)患者への適応拡大も進んでおり、今後さらに幅広い分野での活用が期待されています。

まとめ

SGLT2阻害剤は、血糖降下作用に加えて、体重減少、血圧低下、心血管保護、腎保護など多様な効果を持つ画期的な薬剤です。特に、肥満や心血管リスクの高い2型糖尿病患者にとって、治療の選択肢を広げる重要なツールとなっています。

一方で、副作用リスクや注意点も存在するため、適切なモニタリングのもとで使用することが求められます。患者一人ひとりの病態に応じた最適な治療を行うために、医師と密に連携しながら健康管理を進めることが大切です。